「電子カルテの更新時期が近いが、次は何を選べばよいのか」「医療DXへの対応を進めたいが、いま入れ替えるべきか判断できない」。中小病院やクリニックの院長・事務長にとって、電子カルテの更新は診療体制や費用に関わる経営判断です。
2026年10月16日、富士通Japanは、厚生労働省の標準仕様と認証制度への対応に向け、開発中のクラウドネイティブ型電子カルテの機能強化に着手したと発表しました。提供開始は2027年4月の予定です。[1]
ここで押さえたいのは、この日付が同社製品の提供予定であり、すべての医療機関に共通する更新期限を示したものではないことです。また、今回の発表は対応に向けた開発についてのもので、認証取得済みとの発表ではありません。
更新を考える医療機関が今から進めたいのは、製品の比較表を集めることに加えて、自院の業務と更新条件を整理することです。本記事では、国の制度の動きを確認し、製品選定の前に行う業務の棚卸しと進め方を紹介します。棚卸しや選定の手順は、Alplanからの実務上の提案です。
「標準型電子カルテ」と認証制度をどう理解するか
厚生労働省は、医科診療所と中小病院向けに、電子カルテ・レセプトコンピュータの標準仕様を公表しています。認証制度は、その標準仕様への適合状況を評価し、要件を満たす製品を認証する仕組みです。[2]
国の説明では、医療情報の共有、クラウド型のサービス、システム同士の接続、データを引き継ぐための互換性などが重要な方向として示されています。[2]
ただし、標準仕様への対応や認証の有無だけで、自院に合う製品が決まるわけではありません。診療科、外来・入院の有無、検査機器、受付や会計の運用によって、確認すべき条件は変わります。
選定時は、「標準仕様への対応を予定している」「認証を申請している」「認証を取得している」という説明を分けて確認しましょう。対象となる製品名、バージョン、認証の対象範囲を、最新資料で確かめることが必要です。
クラウド型への移行では、業務と契約を一緒に見直す
院内にサーバーを置く方式からクラウド型へ移る場合、機器構成、保守の分担、通信環境、障害時の対応などを確認する必要があります。どこまで事業者が担うかは製品と契約によって異なります。
「クラウドだから必ず安い」「院内の管理がすべて不要になる」と考えず、自院が行う作業と事業者に任せる作業を分けてください。利用者の権限管理、端末の扱い、職員の教育、問い合わせ窓口なども確認事項です。
電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスとの連携についても、対応の有無だけで比較しないようにします。利用できる時期、必要な契約や設定、追加費用、院内の準備を確認しましょう。「連携予定」と「現在利用可能」は区別する必要があります。
導入後の姿を具体的にするには、患者さんの受付から診察、検査、会計までを一つの流れとして見直すことが役立ちます。
更新前に行いたい、5つの業務の棚卸し
1.受付から会計まで、情報が動く順番を書き出す
まず、患者さんが来院してから帰るまでに、誰が何を入力・確認しているかを並べます。
予約情報の確認、問診の取り込み、診療記録、検査の依頼と結果確認、会計への受け渡しなどについて、使用するシステムと担当者を書き出してください。中小病院では、入退院や病棟、部門システムとのやり取りも加えます。
理想的な手順書だけを見るのではなく、日々の現場で実際に行われている作業を確かめることが大切です。
2.転記・二重入力・確認待ちを見つける
同じ情報を別の画面に入力している作業や、紙に書いてから転記している作業を探します。スタッフ間の確認待ちや、診療後にまとめて処理する作業も候補です。
たとえば「予約システムの変更内容を受付がカルテへ手入力している」なら、単に操作の速さを比べるよりも、予約情報の連携方法を確認する方が、課題に合った比較になります。これは想定例であり、Alplanの支援実績を示すものではありません。
作業を見つけたら、「必要な確認なのか」「同じ情報を重ねて扱っているのか」を分けます。手順を減らす際は、診療の安全性や記録の正確性への影響を院内で確認してください。
3.連携先と、つながらない場合の影響を整理する
検査機器、画像管理、予約、問診、会計、決済など、現在の接続先を一覧にします。中小病院では、薬剤や看護などの部門システムも確認します。
製品名だけでなく、連携している情報、連携方法、保守窓口を整理しましょう。新しい電子カルテとの接続可否は、双方の事業者に確認します。
接続できない場合に、機器の変更が必要なのか、別の連携費用が発生するのか、手作業が増えるのかまで比較すると、見積もりの条件をそろえやすくなります。
4.移行するデータと、過去の記録を見る方法を決める
「データ移行に対応」という説明だけでは、何を引き継げるかは分かりません。患者基本情報、診療記録、処方歴、検査結果、画像や添付資料など、項目ごとに確認してください。
新システムへ取り込むものと、旧システムなどで参照するものを分け、移行後の検索・閲覧・出力方法まで確かめます。移行件数や対応する期間だけでなく、抜けや文字化けをどう点検するかも相談しましょう。
旧システムを残す場合は、閲覧に必要な端末、保守費用、利用可能期間を確認します。将来さらに別製品へ移る場合のデータ出力条件も、今回の契約前に確認しておくとよいでしょう。
5.更新日と、院内で準備できる時期を照らし合わせる
現行契約の満了日、自動更新、解約の申し出期限、機器の保守期限を確認します。そのうえで、新システムの設定、操作練習、移行テストに使える時間を考えます。
繁忙期、人事異動、担当者の休暇なども踏まえて、切り替え可能な時期を絞りましょう。提供開始予定が近いことだけを理由に、準備期間を短くすることは避けたいところです。
院内で使える、電子カルテ更新の棚卸し表
最初は次のような表にまとめると、事業者との打ち合わせに使いやすくなります。患者さん個人の情報は記載せず、業務単位で整理してください。
| 確認項目 | 記録する内容 | 事業者に聞くこと |
|---|---|---|
| 受付・問診 | 担当、使用画面、転記作業 | 予約・問診の連携方法と条件 |
| 診察・検査 | 入力、指示、結果確認の流れ | 普段の診療を再現できるか |
| 会計 | 情報の受け渡し、確認待ち | 連携範囲と手作業が残る箇所 |
| 既存機器 | 製品名、接続先、保守窓口 | 接続可否、追加費用、担当範囲 |
| データ移行 | 引き継ぐ項目と過去記録 | 移行対象、閲覧方法、検証方法 |
| 障害対応 | 連絡先、代替手順 | 通信断・停止時にできること |
| 費用・契約 | 更新日、解約期限、現行費用 | 導入・運用・終了時の総費用 |
すべてを一度に完成させる必要はありません。院長、受付、看護職、医事担当などから困りごとを集め、負担が大きい箇所から具体化しましょう。
Alplanが提案する、選定から切り替えまでの5ステップ
ステップ1:更新の目的を、業務の言葉で決める
「医療DXに対応する」だけでなく、「受付の転記を減らしたい」「過去の検査結果を確認しやすくしたい」など、改善したい場面を整理します。
あわせて、更新で失いたくない機能や運用も書き出します。新しい機能の多さだけで選ぶと、日常業務で必要な条件を見落とすことがあります。
ステップ2:必須条件と、できれば欲しい条件を分ける
必須の連携先、移行対象、サポート条件、切り替え時期などを先に決めます。制度への対応状況も、契約時点で確認すべき項目として比較表に入れます。
提供予定の機能を選定理由にする場合は、実装予定日と、遅れた場合の対応を確認しましょう。
ステップ3:同じ診療場面でデモを依頼する
複数製品を比べる際は、自院でよくある流れを共通のシナリオとして使います。実在患者の情報を使わず、テスト用の例で受付、診察、検査、会計まで確認してください。
院長だけでなく、実際に操作するスタッフも参加すると、画面の切り替えや確認のしやすさを評価できます。操作に迷った点を記録しておくと、導入後の教育内容にもつながります。
ステップ4:同じ期間・範囲で総費用を比較する
初期設定、月額利用、端末、回線、連携、移行、研修、保守、オプションなどを分けて見積もります。旧システムの閲覧費用や、終了時のデータ出力費用も確認しましょう。
比較期間と利用人数、拠点、必要機能をそろえ、費用が変わる条件も記録します。補助金などを使う場合は、その時点の公募要件を別途確認し、採択や対象経費を前提に決めつけないようにします。
ステップ5:移行テストと、停止時の手順を確認する
本番前に、移行データの確認、スタッフの操作練習、連携テストを計画します。切り替えの可否を誰が判断するか、不具合があれば誰へ連絡するかも決めます。
通信障害やシステム停止時は、受付から診療、記録、復旧後の入力までを院内と事業者で確認してください。計画の詳しさは、医療機関の規模とシステム構成に合わせて調整します。
2027年を見据え、まずは更新条件と現場の困りごとを整理する
電子カルテの更新は、画面や製品を入れ替えるだけでなく、院内の情報の流れを見直す機会です。新しい製品の動向を追いながら、現行契約、転記や確認待ち、連携先、データ移行の条件を整理しておきましょう。
Alplanでは、クリニックの業務改善・IT活用を支援しています。電子カルテ更新を検討する際も、現状の業務整理や、比較するための要件の整理から、支援範囲を個別に相談いただけます。
代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)
Alplanの支援内容の全体像は、Alplanが行う医療コンサルとはでも紹介しています。
参考情報
[1] 富士通Japan「厚生労働省の電子カルテ標準仕様および認証制度に対応したクラウドネイティブ型電子カルテシステムの提供について」(2026年10月16日)
https://global.fujitsu/ja-JP/subsidiaries/fjj/news/press-releases/2026/1016-01
[2] 厚生労働省「電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様(基本要件)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/standardspec.html
情報確認日:2026年10月19日。製品の提供時期・対応機能・認証状況は変更される可能性があるため、選定時には厚生労働省と各事業者の最新情報をご確認ください。
