「検査会社からの電話は医師につないだ」「結果は電子カルテに届いている」。それでも、その後に必要な確認や対応が行われたか、院内で把握できているでしょうか。
検査結果の管理は、情報が届いた時点で終わる仕事ではありません。結果を確認する医師が決まり、医学的な判断が行われ、必要な対応と記録につながって初めて、一連の流れを振り返れるようになります。
本記事では、公表された医療事故の分析を入口に、クリニックで検査結果の確認漏れを防ぐための運用を整理します。具体的な検査値の基準や治療方法を示すものではなく、連絡・役割分担・記録の仕組みを点検する記事です。チェック表と進め方はAlplanの実務上の提案です。
医師へ連絡した後にも、対応が止まることがある
日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業 第83回報告書」は、血液検査のパニック値を医師に直接連絡したものの、未対応となった事例を分析しています。2019年1月~2025年9月に報告された情報から抽出された対象事例は7件で、うち5件は外来患者の事例でした。[1]
この7件は、同事業に報告され、定められた条件で抽出された事例の数です。全国の発生総数や、クリニックの事故発生率を表す数値ではありません。
報告書では、別の医師が気付くだろうと考えて連絡を引き継がなかった背景や、連絡を受けた後の対応状況を確認する仕組みに関する課題が取り上げられています。[1]
また、過去の第59回報告書にも、血液検査の結果の確認不足を扱う分析があります。[2] 今回は事故の多さを論じるのではなく、自院で情報が止まり得る場面を考える材料として読みます。
「受領・確認・判断・連絡・記録」を分けて点検する
院内で「確認済み」という言葉を使っている場合、何を確認した状態なのかをそろえることから始めます。
事務職員が検査結果の到着を確認したことと、医師が結果を見て対応を判断したことは、異なる段階です。さらに、患者への連絡を試みたことと、実際に連絡がついて医師の指示が伝わったことも分けて扱います。
例えば、次のように状態を整理できます。
| 段階 | 院内で確認したいこと |
|---|---|
| 結果の受領 | どの検査結果が届き、未着の結果が何か |
| 医師の確認 | 誰が、いつ結果を確認したか |
| 医学的な判断 | 医師がどのような対応方針を決めたか |
| 患者への連絡・対応 | 必要な連絡や対応がどこまで進んだか |
| 記録と引き継ぎ | 未完了の事項を、次に誰が引き受けるか |
これは新たな法定様式を示した表ではありません。自院の電子カルテや検査会社との運用に合わせて、曖昧な状態を減らすための整理例です。
クリニックで見直したい5つの運用
1.緊急の報告と、通常の結果確認を同じ手順にしない
緊急性の高い検査報告を、通常の結果一覧や翌日の確認作業に埋もれさせない仕組みが必要です。
検査会社との契約や現在の連絡方法を確認し、緊急報告がどこへ届くのか、診療中・休診日・診療時間外にはどのように扱うのかを、院長と関係者で確かめます。医学的な基準や対応の緊急性は、医師が検査会社等と確認して定めます。
受付で連絡を受ける場合も、受付担当者が数値から治療の必要性を判断する運用にはしません。決められた経路で医師へ速やかにつなぐ役割を明確にします。
2.担当医が不在のときの引き継ぎ先を決める
常勤・非常勤、曜日別診療などの体制では、検査を依頼した医師と、結果が届いた日の担当医が異なる場合があります。
「依頼した医師が次に出勤したら確認する」という扱いでよいかを事務側だけで決めず、不在時に誰が確認するかを院内の診療体制に沿って整理します。緊急報告で担当医につながらない場合の次の連絡先も、院長が責任を持って決めます。
名簿を作って終わりにせず、休暇・退職・勤務曜日の変更時に更新する担当者を置きます。連絡経路が実際に使えるかを、患者情報を使わない訓練で確かめる方法もあります。
3.「伝達済み」と「対応済み」を区別する
電話をつないだ記録だけでは、必要な判断と対応が行われたかまでは分かりません。
院内で管理する項目は、連絡した相手、時刻、受け手が引き受けたこと、医師が残した判断・指示、未完了の対応などです。記載場所を分散させず、担当者が同じ情報を確認できるようにします。
対応の要否や完了の判断は医師が行います。事務担当者の役割は、決められた記録や引き継ぎが残っているかを確認し、不明な状態を医師へ戻すことです。「記録がないから対応不要」と解釈しないルールにします。
4.検査だけで帰宅する患者の結果も追えるようにする
診察日より前に採血する場合や、外部検査の結果が後日届く場合は、当日の診察予定だけを見ても確認対象を把握できないことがあります。
検査を実施した情報と、届いた結果を照合できるかを点検します。複数の検査を依頼した場合には、一部が届いただけで全て完了したように見えない工夫も必要です。
結果が届いていない状態と、届いているが医師未確認の状態を区別すると、問い合わせ先と次の作業が明確になります。通常の結果確認の時期は、検査内容と自院の診療体制に応じて医師が設定し、緊急報告には別の経路を用意します。
5.患者に連絡がつかない場合を、未完了として残す
患者へ電話をかけたものの、応答がない場合があります。発信したことだけをもって、患者への案内が完了した扱いにしないことが大切です。
連絡の試行状況を記録し、次に誰が引き受けるか、医師へいつ報告するかを決めます。その後に必要な対応は、患者の状態や報告内容を踏まえて医師が判断します。
本人確認や留守番電話への伝言内容も、個人情報保護に配慮した院内ルールで扱います。患者情報を含む確認リストを、個人の端末や未承認のクラウド、生成AIへ移して運用しないようにしましょう。
院内ミーティングで使う確認チェック表
次の表は、現在の仕組みを点検するための例です。患者ごとの対応の緊急性を判定するための表ではありません。
| 点検項目 | 確認する資料・場所 | 不明な場合の次の作業 |
|---|---|---|
| 緊急報告の受け口が明確か | 検査会社との連絡手順 | 院長と検査会社で現行手順を確認 |
| 担当医不在時の引き継ぎ先が決まっているか | 勤務表・連絡経路 | 医師の確認担当と代替経路を決定 |
| 検査依頼と結果の到着を照合できるか | 電子カルテ・結果一覧 | 未着と未確認を見分ける方法を整理 |
| 伝達と対応を区別して記録しているか | 診療録・連絡記録 | 状態の意味と記載場所を統一 |
| 患者と連絡がつかない案件を引き継げるか | 院内の未完了事項の管理 | 医師への報告と次の担当を明確化 |
全てを新しいシステムへ移す必要はありません。まず、現在の仕組みでどこまで確認でき、何が見えないのかを確かめます。別の表を増やす場合は、転記漏れや更新漏れが生じないかも併せて検討します。
振り返りは、件数だけでなく「止まった場所」を見る
改善後は、結果の受領から医師確認までの流れや、引き継ぎが必要だった場面を振り返ります。
見るべきなのは、スタッフ個人を責めるための件数ではありません。不在時の連絡先が分からなかった、一覧に載らなかった、記録の意味が人によって違ったなど、手順のどこに迷いが生じたかを整理します。
報告が増えた場合も、それだけで安全性が悪化したとは判断できません。報告しやすくなった可能性もあるため、背景と内容を確認します。緊急性のある未対応事項を、定例会まで持ち越してよいという意味ではありません。必要な対応を優先したうえで、運用の改善に生かします。
院内全体の安全管理体制については、関連記事「クリニックの医療安全体制|開業時に整えておきたい指針・研修・報告ルール」も併せてご覧ください。
まずは「誰が最後まで引き受けるか」を確かめる
検査結果の確認漏れへの備えは、「気を付ける」と呼びかけるだけでは具体化しません。
受領、医師確認、判断、患者への連絡、記録の各段階について、担当と引き継ぎ先を確かめることから始めましょう。「送った」「伝えた」という記録の先に、必要な判断と対応を追える仕組みがあるかが点検の出発点です。
Alplanでは、クリニックの業務整理、役割分担、マニュアル整備など、院内運用の見直しをご相談いただけます。検査値の評価や治療方針は医師が判断し、Alplanの支援は運用面の整理を対象とします。
代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)
参考情報
[1] 日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業 第83回報告書:医師に血液検査のパニック値の連絡をしたが未対応となった事例」
https://www.med-safe.jp/pdf/report_83_T002.pdf
[2] 日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業 第59回報告書:血液検査の結果の確認不足に関連した事例」
https://www.med-safe.jp/pdf/report_2019_3_T003.pdf
資料確認日:2026年10月20日。
