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医療訴訟に備えてクリニックが整えたい5つのこと|診療記録・説明・相談体制の点検

2026 10/20
医療業界 記事
2026年10月20日
医療訴訟への備えとして診療記録と相談体制を点検する医師と事務担当者

「患者さんから診療内容について強い疑問を示された」「代理人から書面が届いた」。こうしたとき、院長一人に確認や連絡が集中すると、通常の診療と並行した対応が難しくなります。

医療訴訟への備えは、裁判になってから書類を集めることだけではありません。日々の診療記録、患者さんへの説明、外部の相談先、院内の役割分担を、平時から整えておくことが出発点です。

本記事では、最高裁判所などの公表資料を踏まえ、クリニックで点検したい5つの準備を整理します。既存記事の訴訟件数の紹介を補完し、今回は診療を続けながら事実を確認できる運用に焦点を当てます。チェック表や役割分担はAlplanの実務上の提案です。個別事件の責任の有無や訴訟方針は扱いません。

目次

医療訴訟の統計から考える、継続して対応できる体制

最高裁判所が公表する医事関係訴訟の統計では、2025年の平均審理期間は24.1か月です。これは速報値で、その年に既済となった事件の平均です。[1]

この数字から、個別の相談が必ず約2年で解決すると予測することはできません。訴訟前の交渉や、その後の手続まで含めた総期間を表すものでもありません。また、統計はクリニックだけを対象にした集計ではありません。

院内で考えたいのは、期間を一律に見積もることよりも、担当者が変わっても経過を追え、診療と対応を両立できるかという点です。記録の保管場所や連絡履歴を一人だけが把握する体制では、休暇や退職の際に引き継ぎが難しくなります。

なお、診療科別の件数を、その診療科の医療事故の起こりやすさと読み替えることはできません。最高裁判所の資料にも、この点への注意が示されています。[1] 統計を使う際は、自院のリスクを直接示す数値なのかを区別して読みましょう。

1.診療記録を、経過と判断が分かる状態で残す

日頃から確認したいのは、診療の経過を後から正確にたどれるかということです。

症状、所見、検査結果、医師の判断、実施した処置、患者さんへ説明した内容などが、必要な範囲で記録されているかを点検します。院内で説明用紙を使う場合は、どの版を使用したのかも確認できると、当時の説明内容を振り返りやすくなります。

厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針」は、診療記録の正確性を確保し、訂正時には誰が、何を、いつ訂正したか分かるようにすること、不当な改ざんを行わないことを示しています。[2]

後から記憶を整理したメモを、当日の診療時点から存在した記録のように扱わないことが大切です。追記や訂正が必要な場合は、作成・変更の経緯が残る院内手順で扱います。

「何も書いていないから何もしていない」「書いてあるから法的責任はない」といった単純な結論を、院内で先に出す必要はありません。事実の整理と法的評価を分け、評価が必要な点は専門家へ確認します。

2.患者さんへの説明と、質問への回答を共有する

診療内容について疑問や不安が示されたとき、担当者ごとに説明が変わると、何を確認すべきかが分かりにくくなります。

まず、患者さんが知りたいことを整理します。「治療経過を説明してほしい」「検査結果を確認したい」「記録の写しがほしい」など、求めている内容を区別すると、院内での確認先を決めやすくなります。

医学的な説明は担当医が行い、事務担当者は面談の日程や連絡方法の調整などを担います。分からない事項については、確認担当と次の連絡予定を明確にし、確認済みの事実と未確認の内容を混ぜて伝えないようにします。

説明を行った際は、日時、説明者、同席者、主な質問、回答した内容、次に確認する事項を、院内の決めた場所に記録します。同意書があることだけで説明の経緯が全て分かるとは考えず、個別にどのようなやり取りがあったかも振り返れるようにします。

説明のための記録は、患者さんの発言を都合よく要約するためのものではありません。受け止め方や評価と、実際に確認できた発言・出来事を区別して残します。

3.紛争が疑われる段階で、関連資料を保全できるようにする

相談や請求があってから、資料の所在を一から探す状態は避けたいものです。

診療録だけでなく、検査・画像データ、紹介状、説明文書、同意書、患者さんとの連絡履歴など、関係する可能性のある情報がどこにあるかを確認できるようにします。対象となる資料の範囲や保全方法は、事案に応じて弁護士などへ相談します。

電子カルテや予約・電話システムは、院外の事業者が管理している場合もあります。履歴の保存期間や取り出し方、問い合わせ窓口を平時から把握しておくと、必要時の確認が進めやすくなります。

保全の際に元データを上書きしたり、都合の悪い記録を削除したりしてはいけません。権限を持つ担当者が、変更履歴や元の情報を損なわない方法で扱います。

患者情報を含む資料を、個人のメールや未承認のクラウド、生成AIに入れて整理する運用も避けます。誰が閲覧でき、誰に渡したかを管理し、外部提供の範囲・根拠・方法を確認します。

4.弁護士・医師会・加入保険の相談先を確認する

院長が医学的な経過を説明できても、法的な責任や保険の適用条件まで、一人で判断する必要はありません。

日本医師会の医師賠償責任保険制度では、対象会員や事故の条件が示され、医師会と保険会社等が協力して紛争処理に当たる仕組みが案内されています。[3] ただし、全ての医師・法人・診療行為が、同じ条件で補償されるという意味ではありません。

自院で確認したいのは、次のような項目です。

  • 医師個人と医療法人について、それぞれどの契約で備えているか
  • 常勤医・非常勤医など、対象者の範囲はどうなっているか
  • 事故や損害賠償請求があった際、誰に連絡する契約か
  • 弁護士への相談や費用について、どのような条件があるか
  • 示談や支払いを進める前に、どのような確認が必要か

これらは契約内容を確認するための例です。具体的な補償の可否は、実際の約款・契約と事案に基づき、保険会社等へ確認します。

訴状や裁判所からの書類が届いた場合は、受領日や同封書類を記録し、期限を含めて速やかに弁護士へ確認します。院内会議の日まで保管しておくだけにせず、対応の責任者へ確実に引き継ぎます。

5.診療を継続するための役割分担を決める

医療訴訟への備えは、資料をまとめる担当者を置けば完了するものではありません。診療を担う院長と、日程調整や資料の所在確認を担う担当者が、それぞれ何を引き受けるかを決めます。

例えば、院長が全ての電話を受けるのではなく、事務担当者が連絡先と用件を受け付け、内容に応じて院長や弁護士へ引き継ぐ方法が考えられます。事務担当者が医学的評価や法的判断を代わりに答える運用にはしません。

関係するスタッフが休暇・退職する場合も、必要な経過を院内で確認できるようにします。一方で、関係のない職員にまで患者情報を広げず、共有範囲は役割に応じて限定します。

担当者の心理的な負担も確認し、必要に応じて相談や支援につなげます。院内で検討する際は、後から分かった情報と当時分かっていた情報を分け、関係者の説明を誘導しないことも大切です。

院内で確認したい準備チェック表

次の表はAlplanによる運用点検の例です。法律上の全要件を網羅したものではなく、これだけで紛争を防げると保証するものでもありません。

点検すること 平時に確認する資料・場所 次の作業の例
診療経過と説明内容を追えるか 診療録、説明文書、同意書 記載場所と文書の版管理を確認
記録の追記・訂正の履歴が残るか 電子カルテ等の操作手順 作成者・日時・変更内容の扱いを整理
関連資料を保全できるか 検査・画像・連絡履歴の保存先 管理担当と外部事業者の窓口を確認
専門家へ速やかに相談できるか 弁護士・医師会・保険の連絡先 契約条件と連絡経路を確認
診療と対応を分担できるか 院内の担当表・引き継ぎ手順 不在時の担当と共有範囲を決定

「整備済み」と書くだけでなく、実際の資料や連絡先を開いて確かめます。古い担当者名や、退職者だけが分かる保存先が残っていないかも確認しましょう。

患者さんからの相談・苦情の初期対応は、関連記事「患者からの相談・苦情を紛争にしない|医療安全支援センターのデータから考える初期対応」で整理しています。

診療記録の開示請求を、対立のサインと決めつけない

診療記録の開示を求められたことだけで、訴訟の準備だと決めつける必要はありません。

厚生労働省の指針は、患者等からの開示の求めには原則として応じる考え方を示しています。[2] 開示請求は、患者さんが自分の診療内容を知るための手続でもあります。

院内の手続や関係法令に沿って、本人確認、対象資料、回答方法などを扱います。個別の開示範囲や例外の判断に迷う場合は専門家へ確認し、受付担当者の独断で拒否しないようにします。

患者さんの知りたいことに向き合うことと、関連する記録を正確に保つことは、両立させて考えるべきものです。

平時の運用を整え、院長一人で抱え込まない

医療訴訟への備えとして、まず確認したいのは、当時の経過を正確にたどれる記録と、適切な相談先につなぐ仕組みです。

診療記録、説明の履歴、資料の保全、外部相談先、院内の役割分担を、できるところから点検しましょう。個別の法的判断を急いで院内だけで決めず、医学的な確認と法律・保険の確認を、それぞれ適切な担当者につなぎます。

Alplanでは、クリニックの業務整理、文書管理、連絡・引き継ぎ手順など、院内運用の整備をご相談いただけます。訴訟代理、法律相談、示談交渉を行うものではなく、法的対応は弁護士などの専門家と連携して進めます。

Alplan(アルプラン)のお問い合わせフォームはこちら

代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)

参考情報

[1] 最高裁判所「医事関係訴訟に関する統計」(令和7年の数値は速報値)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/260527-iji-toukei.pdf
掲載元:https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html

[2] 厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3403&dataType=1&pageNo=1

[3] 日本医師会「日本医師会医師賠償責任保険制度」(2026年3月18日)
https://www.med.or.jp/doctor/sonota/sonota_etc/003368.html

資料確認日:2026年10月20日。制度・契約条件等は変更される場合があります。

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