※情報確認日:2026年10月22日。本記事のチェック表・運用例は、厚生労働省の公表資料を参考にAlplanが整理した実務上の提案です。
朝の診療開始直前に、電子カルテが開かない。受付では予約を確認できず、診察室では前回の処方が見られない。会計まで止まったら、誰が患者さんに説明するのでしょうか。
電子カルテの停止は、担当業者だけの問題ではありません。診療を続けられる範囲を判断し、受付から会計までの動きをそろえることは、院長とスタッフが平時に準備しておきたい経営課題です。
厚生労働省は、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版と、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の確認表・手引きを公表しています。[1] これらを入口に、自院の「止まったときの動き」を点検してみましょう。
1.まず「何が使えないと、何が止まるか」を整理する
電子カルテ、予約、検査、画像、会計などは、同じ端末から操作していても、契約先や接続方法が異なる場合があります。「電子カルテが止まった」という一言だけでは、診療への影響を十分に判断できません。
例えば、予約システムは見られても、過去の診療記録が参照できない状況があります。反対に、院内の記録は見られても、外部との通信ができないこともあります。クラウド型であっても、院内の回線や端末の障害に備える必要があります。
最初の準備として、普段の患者さんの流れに沿って、使うシステムと停止時の影響を書き出します。
| 業務 | 停止すると困ること | 平時に決めること |
|---|---|---|
| 受付・予約 | 予約時刻や受付済みの確認ができない | 当日の患者さんをどう確認するか |
| 診察 | 過去の記録や薬剤情報を参照できない | 診療範囲と医師への相談手順 |
| 検査 | 依頼・結果・実施状況が分からない | 実施済みと未実施の照合方法 |
| 処方 | 処方内容や送信状況を確認できない | 薬局との連絡と重複防止 |
| 会計 | 金額計算や決済ができない | 支払い案内と後日精算の扱い |
この表は、紙に切り替えればすべて続けられるという意味ではありません。必要な情報を確認できない診療を無理に継続しないために、どこで医師が判断するかを明確にするものです。
2.最初の連絡を、受付スタッフの判断に任せない
システムの反応が遅いのか、通信障害なのか、サイバー攻撃の疑いがあるのか。現場だけで原因を確定することは難しいものです。
厚労省のBCP手引きでは、異常を知らせる経路や、非常時の役割をあらかじめ整える考え方が示されています。[2] クリニックでは、次の情報を一枚にまとめる方法が考えられます。
- 最初に知らせる院内責任者と、不在時の代行者
- 電子カルテ・回線など契約先ごとの連絡窓口
- 夜間・休日の対応範囲と連絡方法
- 連絡時に伝える発生時刻、症状、影響する業務
- 患者対応を変更するときの判断者
連絡先を電子カルテ内や院内の共有フォルダだけに保存していると、停止時に開けない可能性があります。紙で保管するなど、対象システムに依存しない方法も用意しましょう。担当者の交代や契約変更時には更新します。
実際に異常が起きたときは、確認した事実を時刻とともに記録します。「すべて止まった」と決めつけず、どの端末で、何ができず、いつ気づいたかを伝えると、問い合わせの行き違いを減らせます。
3.原因不明のまま、自己判断で復旧操作を重ねない
急いで直したい場面ほど、再起動、初期化、バックアップの接続などを繰り返したくなるかもしれません。しかし、障害の原因によって必要な対応は異なります。
サイバー攻撃が疑われる場合には、被害拡大を防ぐ対応と、調査に必要な情報を残す対応を考える必要があります。操作は事前に決めた手順と、契約事業者・専門担当者の指示に沿って行いましょう。
院内で共有しておきたいのは、「誰でも直そうとしてよい」という状態にしないことです。不審な表示や異常を見つけた職員は、発生状況を報告し、定められた初動手順を実施します。ネットワークの切り離しや電源操作についても、自院の構成に合う具体的な手順を平時に事業者と確認しておきます。
また、原因調査と患者対応は別々に進める必要があります。業者との電話をしている一人が、待合室への説明や紙の記録管理まで抱え込まないよう、役割を分けましょう。
4.紙の記録は、受付から会計までつながる形にする
紙カルテの用紙だけを用意しても、受付、診察、検査、会計の間で情報がつながらなければ、確認漏れが起きます。用意した様式が、実際の患者さんの動きに合うかを確認しましょう。
例えば、受付で患者さんを確認し、診察室へ引き継ぎ、検査が終わったことを記録し、会計待ちの状態にする。この流れを、一人分の架空の事例でたどってみます。
点検したいのは、氏名だけで別の患者さんと取り違えないか、実施済みの検査をもう一度依頼しないか、処方が済んでいるか確認できるか、といった点です。患者確認の方法は院内の医療安全手順に合わせ、医師・看護師・受付で確認します。
紙の記録には個人情報が含まれます。置き場所、持ち運び、引き継ぎ、保管の責任者を決めておくことも必要です。個人のスマートフォンや私用のメッセージサービスで患者情報を共有するような、即席の運用に流れない体制を整えましょう。
5.診療を続ける範囲と、患者さんへの案内を決める
「診療を止めない」ことだけを目標にすると、確認できない情報が多いまま診療を続けてしまうおそれがあります。患者さんの安全を優先し、継続、制限、延期、他院への相談などを判断できるようにします。
どの診療を継続できるかは、自院の機能や患者さんの状態によって異なります。スタッフが一律の線引きをするのではなく、院長など判断者へつなぐ条件を決めます。
案内の例としては、次のような構成が考えられます。
現在、院内システムの不具合により、受付・診療・会計に通常より時間がかかっています。診療内容によっては、日程の変更などをご相談する場合があります。お急ぎの症状がある方は、受付へお申し出ください。
これは自院の状況に合わせて調整する例です。復旧時刻が分からない段階で「間もなく復旧します」と約束したり、調査前に「情報漏えいはありません」と断定したりしないようにします。
電話、院内掲示、ホームページで案内が食い違わないよう、説明を更新する責任者と時刻をそろえます。公開する内容は、確認できた事実と、患者さんにお願いする行動を中心にまとめましょう。
6.バックアップは「取っている」から「戻せる」へ
バックアップがあることと、診療に必要な状態まで復旧できることは別です。契約事業者と、保存対象、復旧できる時点、必要な作業、役割分担を確認しましょう。
厚労省のBCP手引きは、サイバー攻撃を想定したバックアップと復旧手順の確認を扱っています。[2] 自院での打ち合わせでは、次の質問を使うと具体的になります。
- 何のデータと設定が保存されているか
- 直近のどの時点まで戻せるか
- 復旧に必要な機器・権限・担当者は誰か
- バックアップまで影響を受ける事態にどう備えるか
- 復旧できたことを、誰がどの業務で確認するか
「バックアップあり」という回答だけで終わらず、契約範囲と実際の運用を照合します。必要な保存方法はシステムによって異なるため、医院側で一律に機器を追加する前に、事業者と安全な構成を確認します。
7.再開後こそ、紙とシステムの照合が必要
画面が開くようになっても、停止中に行った診療や会計が自動的に反映されるとは限りません。紙の記録を戻す工程まで準備しておきましょう。
入力担当者、確認者、対象となる期間を決め、患者さんごとに確認します。例えば、検査の依頼と結果、処方済みの情報、未精算の会計などを、未処理の一覧として管理する方法が考えられます。
特に、紙に書いた指示をそのままシステムへ再登録すると、再度実行されるのか、記録だけになるのかは仕組みによって異なります。事業者と確認し、重複した検査依頼や処方につながらない手順を整えます。
停止中に確認できなかった結果や連絡事項も、担当者と期限を付けて引き継ぎましょう。「復旧したから終了」ではなく、診療と事務処理の未完了が残っていないことまで確認します。
8.短い訓練で、使える手順に近づける
立派なマニュアルを作る前に、架空の患者さん一人で流れを試すと、準備不足を見つけやすくなります。訓練には実在の患者情報を使わず、実際のシステムを停止させない方法から始められます。
| 点検項目 | 確認すること |
|---|---|
| 連絡 | 院長不在でも責任者と事業者へ連絡できるか |
| 受付 | 用紙を取り出し、患者確認と順番管理ができるか |
| 診療 | 継続範囲を判断する医師につながるか |
| 会計 | 処理できない場合の説明をそろえられるか |
| 復旧 | 紙の記録を戻す担当者と確認者が決まっているか |
| 改善 | 見つかった課題に担当者と対応期限を付けたか |
訓練後には、「電話番号が古かった」「用紙の場所が分からなかった」など、実際に困ったことを記録します。担当者を決めて修正し、スタッフやシステムの変更時にも見直しましょう。
まとめ:最初の一歩は、連絡先と一人分の流れの確認
電子カルテ停止への備えは、機器やソフトの対策に加え、医院全体の動きを決める取り組みです。連絡先、診療の判断者、紙の運用、患者案内、復旧後の照合を一緒に考える必要があります。
まずは院長とスタッフ、契約事業者で、停止時に困る業務を一つずつ確認しましょう。「誰に連絡するか」と「患者さん一人をどう案内するか」を具体化することが、診療継続の準備につながります。
クリニックの業務整理・IT活用のご相談
Alplanでは、クリニックの院内業務の整理やIT活用に関するご相談を承っています。診療と事務の流れ、担当者の役割分担、ホームページでの患者案内などの見直しは、下記フォームからお問い合わせください。セキュリティ事故の技術的な調査・復旧は、契約事業者や専門機関と連携して進める必要があります。
代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)
参考資料
[1] 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(令和8年6月)」掲載ページ(チェックリスト・BCP資料を含む)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html
[2] 厚生労働省「サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)策定の確認表のための手引き」(令和6年6月発出)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001261301.pdf
※本文の運用例は、自院の診療機能、契約、システム構成に合わせて調整してください。令和6年のBCP手引きに記載された旧版ガイドラインの参照箇所は、現行版と照合する必要があります。
