「医療訴訟は増えているのか」という疑問を持つ院長も多いのではないでしょうか。最高裁判所が公表している統計を見ると、医事関係訴訟の新たな提訴件数(新受件数)は、ピーク時から減少しています。
この記事では、医事関係訴訟の件数の推移を紹介し、クリニックが訴訟や紛争に発展させないために日頃からできることを整理します。
1.医事関係訴訟の件数の推移
最高裁判所の資料によると、医事関係訴訟の新受件数は2004年(平成16年)に1,110件でピークとなりました。その後は減少し、2020年(令和2年)は834件でした(速報値)。[1]
さらに、最高裁判所の検討会資料では、令和3年までの数年は新受件数が700件台で推移していたものの、令和4年に645件に減少し、令和6年も令和4年と同水準で推移していると報告されています。[2]
| 年 | 新受件数 |
|---|---|
| 2004年(平成16年) | 1,110件 |
| 2020年(令和2年) | 834件(速報値) |
| 2022年(令和4年) | 645件 |
2022年の件数は、ピークだった2004年と比べて約4割少ない水準です。
2.訴訟は長期化しやすい
医事関係訴訟は、専門的な医学知識が必要になることから、一般の民事訴訟に比べて審理期間が長くなる傾向があります。2020年の平均審理期間は26.1か月(速報値)でした。[1]
訴訟になれば、院長は長期間にわたって対応を求められ、診療や経営に影響が出ることもあります。件数が減少しているとはいえ、「訴訟に至らないようにする」ための日頃の取り組みが重要です。
3.紛争の多くは「説明」と「記録」に関わる
医療紛争のきっかけは、必ずしも医療行為そのものの誤りだけではありません。「十分な説明がなかった」「経過が分からない」といった患者や家族の不信感が、紛争に発展するケースもあります。日頃から次の点を意識しておきましょう。
説明と同意
検査や処置の目的、予想されるリスク、他の選択肢について、患者が理解できる言葉で説明します。説明した内容と患者の反応は、診療録に記録しておきます。
診療録の記録
診療の経過、判断の理由、患者への説明内容を、後から第三者が読んでも分かるように記録します。記録は、紛争になった場合に診療の経過を示す重要な資料になります。
患者からの問い合わせへの対応
患者からの疑問や不満には、早めに、誠実に対応します。対応の窓口や院長への報告ルールを決めておくと、スタッフも迷わずに対応できます。
4.万が一に備えて確認しておきたいこと
- 医師賠償責任保険の補償内容と、保険会社への連絡方法
- 医療紛争に詳しい弁護士など、相談先の確保
- 所属する医師会の相談窓口や支援の内容
- 紛争が起きた場合の院内の対応手順と、記録の保全方法
件数の推移より「自院の備え」を
医事関係訴訟の件数は減少傾向にありますが、一件の紛争が院長とクリニックに与える負担は小さくありません。説明と記録、患者対応のルールを整えておくことが、紛争の予防につながります。
Alplanでは、クリニックの運営体制や業務フローの見直しに関するご相談を受け付けています。患者対応のルールづくりや院内の報告体制を整えたい方は、お気軽にご相談ください。なお、個別の紛争や法的判断については、弁護士にご相談ください。
参考情報
確認日:2026年10月12日。数値は各資料の公表時点のものです。最新の統計は最高裁判所の公表資料でご確認ください。
[1] 最高裁判所「医事関係訴訟事件の処理状況及び平均審理期間(平成11年~令和2年)」
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2021/210630-1heikinsinri.pdf
[2] 最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する検討会(第73回)開催結果概要」(令和7年5月)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2025/73kentoukai.pdf
[3] 最高裁判所「医事関係訴訟委員会について」
https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html
