診療を終え、ようやく自分の仕事に取りかかろうとした瞬間、「院長、ちょっといいですか?」。物品の発注、応募者への返信、業者からの提案。答えているうちに、今日も帰る時間が遅くなる。
そんなときは、院長に集まる確認の中身を見直してみましょう。判断基準や担当範囲が決まっていないために、スタッフだけでは進められない仕事が隠れているかもしれません。
大切なのは、必要な相談を受けながら、毎回同じ確認が生じる仕事を減らすことです。この記事では、診療以外の仕事について、クリニックで試せる5つの見直しを紹介します。
1.「何時間働いたか」に加えて「何で中断されたか」を記録する
最初に、院長へ届く相談を1週間ほど記録します。詳細な日報を作る必要はありません。「相談内容・かかった時間・その場で院長に聞いた理由」を短く残しましょう。
例えば、次のように分けます。
- 発注:いつもの消耗品だが、注文してよい在庫数が決まっていない
- 採用:応募者へ返信したいが、案内する面接候補日が分からない
- 業者対応:提案を受けたが、必要な比較資料が揃っていない
- HP更新:休診案内の掲載担当と確認手順が決まっていない
同じ相談が繰り返されるなら、そこが改善候補です。相談したスタッフを評価するためではなく、迷いが生じる仕組みを見つけるために記録します。
厚生労働省の「いきサポ」は、多職種で現状を把握・分析し、課題を抽出して、できることから改善計画を立てる進め方を示しています。[1] 院長の記録に加え、「どこで判断に迷ったか」をスタッフにも聞くと、手順の不足を見つけやすくなります。
2.「最後に決めること」と「決める前の準備」を切り分ける
採用も契約も、全工程を院長が担う必要があるかを確認します。まずは、最終判断までに必要な準備を書き出してください。
採用なら、募集条件の決定、応募者への連絡、面接の日程調整、評価の整理、採否判断という工程があります。院長が採否を決める体制でも、連絡や資料の整理まで全て院長が行う必要があるとは限りません。
業者の選定も同様です。見積書を集め、対応範囲・費用・納期を比較したうえで、院長が判断する流れを検討できます。
分担は、次の3段階で整理すると具体化できます。
- 院長が判断する
- 担当者が準備し、院長が承認する
- 決めた条件の範囲内で、担当者が進める
以下の例は、一般事務の分担を考えるための提案です。診療上の判断や資格・法令に関わる業務を、そのまま移す趣旨ではありません。
3.「任せます」と同時に、院長へ戻す条件を決める
「発注をお願いします」とだけ伝えると、スタッフは品目や数量のたびに確認することになります。担当を決める際は、進めてよい条件と、承認が必要な条件をセットにしましょう。
物品発注の例
いつもの消耗品について、対象品目、確認する在庫数、発注先、発注単位を整理します。価格変更、欠品、代替品への切替などは、確認が必要な条件として定めます。基準は自院の在庫や予算、診療への影響に合わせて設定します。
採用連絡の例
院長が確認した募集条件、返信文、面接候補日の範囲内で、担当者が日程を調整します。候補者から条件変更の希望が出た場合などは、院長へ確認します。
業者対応の例
担当者が提案内容と見積書を受け取り、比較資料を用意します。新規契約や契約条件の変更は、所定の承認を経て決める流れにします。
任せた後には、「何を終えれば完了か」「どこへ記録するか」「担当者が不在なら誰が対応するか」も確認します。既存の仕事に追加する場合は、減らせる作業や確保する時間も相談してください。
4.急がない確認はまとめ、緊急の連絡はすぐ届くようにする
確認が一件ずつ届くと、そのたびに院長の作業が中断されます。契約更新の進捗や面接候補日の確認などは、決まった時間にまとめて確認できるか検討しましょう。
相談時の書き方を揃えることも役立ちます。
- 状況:何が起きているか
- 期限:いつまでに決める必要があるか
- 選択肢:確認済みの候補は何か
- 提案:担当者はどれを勧めるか、その理由は何か
- 判断事項:院長に何を決めてほしいか
例えば「業者から見積もりが来ました」だけでは、院長が改めて内容を読み解く必要があります。「更新期限は来月。現契約と新提案の差は保守範囲。比較表を作成したので、継続か再見積もりかを確認したい」と整理すると、判断すべき点が明確になります。
一方、患者の安全や診療の継続に関わる問題、情報漏えいが疑われる事態などは、定例報告を待たずに相談できるルールが必要です。「相談を減らす」という目標が、報告の遅れにつながらないようにします。
5.一つの業務で試し、スタッフの負担も確認する
最初から全業務を変えると、説明や引継ぎだけでも負担になります。まずは、確認が繰り返される一般事務を一つ選びましょう。
例えば「消耗品の発注」を選んだら、手順と判断基準を1枚にまとめ、担当者と一緒に確認します。試行期間を決め、運用後に次の点を振り返ってください。
- 院長が対応した時間と確認回数はどう変わったか
- 担当者の作業時間や残業が増えていないか
- 発注漏れ、重複、判断に迷う場面はなかったか
- 手順に追加する例外はあるか
院長の時間が減っても、スタッフの負担やミスが増えていれば調整が必要です。診療量や欠勤など、比較期間の条件の違いも確認しましょう。
院内だけでは対応が難しい場合は、外部支援との分担も選択肢です。その際は、依頼範囲、費用、報告方法、情報へのアクセス権限、契約終了時の引継ぎを確認します。税務や労務などの専門領域は、担当する専門家との役割も整理してください。
今日、院内で確認したいチェックリスト
まずは次の項目を、院長と担当スタッフで確認してみてください。
□ 院長へ繰り返し届く一般事務の相談を、一つ挙げられる
□ その業務の「準備」と「最終判断」を分けている
□ 担当者が進めてよい条件を決めている
□ 院長への確認が必要な例外を決めている
□ 不在時の担当と記録場所が分かる
□ 急ぎの相談と定例報告を分けている
□ スタッフの作業時間も含めて見直す日を決めている
全てを一度に整える必要はありません。一つの業務について、担当者が迷う場面を減らすところから始めましょう。
Alplanでは、クリニックの業務改善や院内体制の整理について相談を受け付けています。「どこまで任せられるか分からない」「院内と外部支援の役割を整理したい」という場合は、現在の業務と人員体制をお聞かせください。
参考情報
確認日:2026年10月16日。
本記事の5つの手順、分担例、チェックリストはAlplanによる運営改善の提案です。公的資料が、この具体的な手順や改善効果を保証するものではありません。
[1] 厚生労働省「いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ)/勤務環境の改善とは」
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/outline/
