情報確認日:2026年10月29日
受付で強い言葉を受けたスタッフが、そのまま一人で対応を続けている。電話が長引いていても、交代する人や相談先が決まっていない。こうした状態を、担当者の経験や我慢だけで乗り切ろうとしていないでしょうか。
患者さんの相談や苦情には、説明不足や運用上の問題に気づくための大切な情報も含まれます。一方で、職員の安全や健康、ほかの患者さんの診療を守るため、医院として対応すべき言動もあります。
本記事では、正当な申入れを尊重しながら、スタッフが一人で抱え込まない相談・報告の手順を整理します。カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)かどうかを受付で即断するための基準表ではなく、判断を医院につなぐための実務提案です。
1.「苦情があった」だけでカスハラと決めない
厚生労働省の2026年10月26日の検討会資料では、医療現場におけるカスハラ対策や啓発媒体が紹介されています。[1] また、2026年10月1日から適用された国の指針は、社会通念上許容される範囲を超える顧客等の言動によって、労働者の就業環境が害されることをカスハラの要素として整理しています。[2]
大切なのは、苦情のすべてが該当するわけではないことです。説明を求めることや、障害に関する合理的配慮を必要としていると伝えること自体を、カスハラとして扱ってはいけません。[2]
医院では、申入れの内容と、実際に行われた言動を分けて確認します。言葉の強さだけで結論を出さず、職員の安全確保と事実の確認を進めましょう。以下の表や声かけ例はAlplanの提案であり、個別の法的判断を代わりに行うものではありません。
2.最初に決めるのは「困ったとき、誰を呼ぶか」
職員に「何かあれば相談してください」と伝えるだけでは、どの程度で声をかけてよいか迷いが残ります。本人がカスハラだと確信できていなくても、対応に不安を感じた段階で相談できるようにします。
院長や事務責任者など、一次相談先と、その人が不在のときの連絡先を決めます。少人数の医院では、受付の混雑や診療中でも使える合図・連絡方法まで確認しておくと、実際に助けを求めやすくなります。
| 決める項目 | 院内で確認する内容 |
|---|---|
| 最初の相談先 | 誰に、どの方法で状況を知らせるか |
| 不在時の対応 | 代わりに判断する人、連絡の順序 |
| 担当交代 | 誰が引き継ぎ、最初の担当者をどう離すか |
| 周囲への配慮 | 他の患者さんや職員の安全・診療をどう守るか |
| 外部への相談 | 警察、顧問弁護士、社会保険労務士等への連絡先 |
相談先を決めることと、その人がすべて一人で解決することは同じではありません。院長が診療上の判断を行い、事務責任者が経緯を整理し、必要に応じて外部の専門家につなぐなど、役割を分けます。
暴力や脅迫などで危険が迫る場合は、通常の報告順を待たず、安全確保と緊急の通報につなげる運用が必要です。相談の前に「自分で説得してみる」ことを必須にしないようにしましょう。
3.交代するときは、相手への案内と院内の引き継ぎを分ける
担当を交代する際に、患者さんの前で「この方はカスハラです」と評価を共有すると、対話を難しくするおそれがあります。相手には対応の流れを短く説明し、院内では事実を引き継ぎます。
例えば、「確認が必要なため、責任者に引き継ぎます」「ご相談の内容を整理し、担当からご説明します」といった声かけが考えられます。これは通常時の例であり、差し迫った危険がある場面で対話を続けることを求めるものではありません。
引き継ぎでは、何を求められているか、どのように説明したか、どの言動に不安を感じたかを分けます。「怒っている」「いつもの人」といった評価だけでは、次の担当者が判断しにくくなります。
責任者に交代した後は、最初の担当者をその場に残し続けない配慮も検討します。落ち着ける場所で状況を確認し、勤務を続けられるか、休息やほかの支援が必要かを確かめましょう。
4.記録は「相手の評価」ではなく、起きたことを残す
対応後の記録は、医院として経緯を把握し、再発防止や外部相談に役立てるために残します。感情的な評価や、本人が確認していない事情を混ぜないようにします。
| 記録する項目 | 残しておきたい内容 |
|---|---|
| 日時・場所・連絡方法 | 受付、診察室、電話など、対応した状況 |
| 申入れの内容 | 相手が求めた説明や対応、確認が必要な点 |
| 実際の言動 | 発言や行為、繰り返しの状況、周囲への影響 |
| 医院の対応 | 説明内容、交代、相談、判断した人 |
| 職員への影響 | けが、不安、業務への影響、必要な支援 |
| 次の確認 | 担当者、確認先、回答や振り返りの予定 |
発言を記録する際には、覚えている言葉と、後から要約した内容を区別します。時間や回数が不確かな場合は、推測の数字で埋めず、その旨を記載します。
記録には患者情報や職員の相談内容が含まれるため、保管場所と閲覧できる人を決めます。院内の個人チャットや、誰でも見られる共有欄に詳しい経緯を広げないようにしましょう。診療上必要な記録との関係も含めて、医院として整理します。
録音・録画を導入する場合は、利用目的、周知、保存期間、閲覧権限、提供先などを専門家と確認します。証拠を残すためという理由だけで、取得した情報をSNS等に公開する運用にはしないことが重要です。
5.相談への対応と、診療を続けるかの判断は分ける
スタッフを交代させること、窓口を一本化すること、診療の求めへの対応を決めることは、それぞれ異なる判断です。「カスハラ対策の掲示があるから、受付で診療を断ってよい」と考えないようにします。
厚労省の2019年12月25日付通知は、診療の求めに応じないことが正当化されるかを考える際、患者さんに緊急対応が必要かどうかを最も重要な考慮要素としています。診療時間や信頼関係等も踏まえた整理が示されています。[3]
そのため、今後の診療の扱いは、具体的な言動、病状、診療提供の状況などを確認し、院長が必要に応じて弁護士等へ相談して判断します。過去のトラブルや「要注意」という表示だけで、一律に対応を決めることは避けましょう。
院内では、受付担当者が判断せずに医師へつなぐ条件を明確にします。診療が必要な状況の確認と、職員の安全確保をどのように並行して行うかも、平時に話し合っておく必要があります。
6.掲示・HPは、相談窓口と職員を守る方針を一緒に伝える
院内掲示やHPの方針は、強い言葉で警告するだけで終わらせず、相談や意見を受け付ける方法も示します。患者さんが困っていることを伝えられる入口と、職員への暴力等を許容しない方針を両方整えましょう。
例えば、「診療や説明についてのご相談は、受付にお申し出ください。内容に応じて責任者が確認します」と相談方法を伝えたうえで、職員や他の患者さんの安全を損なう言動には、医院として対応する方針を案内する構成が考えられます。
これは文章構成の例です。診療を行わない条件や退去要求などを記載する場合には、個別の法的・医療上の判断が関わるため、文面を専門家と確認してください。方針を掲載しただけで対応体制が整ったことにはなりません。
HP、掲示、電話での説明が食い違わないよう、更新担当者と確認日も決めます。スタッフには、掲示を読むように求める前に、相談内容をどの窓口で確認するかを説明できるよう共有しておきます。
7.対応後は、職員への支援と医院側の改善を確認する
問題の場面が収まった後も、職員の不安が解消しているとは限りません。「もう終わったこと」とせず、責任者が状況を確認し、必要に応じて勤務上の配慮や専門的な支援につなぎます。
国の指針は、相談窓口の整備に加え、相談したこと等を理由とする不利益な取扱いをしないことや、関係者のプライバシー保護についても定めています。[2] 相談を受けた内容を、興味本位で共有したり、相談者の評価に結びつけたりしない運用が大切です。
一方で、患者さんの申入れの中に、医院側で改善できる点がなかったかも別に検討します。予約条件の案内が古かった、料金の説明が部署で違った、連絡すると伝えたまま回答が遅れたなど、事実が確認できた点は修正します。職員を守ることと、医院の説明や運用を点検することを両立させましょう。
振り返りでは、次の五つを確認してみてください。
- 不安を感じた段階で、担当者が相談できたか。
- 交代する人と、不在時の連絡先が分かったか。
- 申入れの内容と実際の言動を分けて記録できたか。
- 診療上の判断を、受付担当者だけに任せていなかったか。
- 職員への支援と、医院側の改善事項を確認したか。
カスハラへの対応を、職員個人の接遇能力の問題にしないことが出発点です。相談先、交代、記録、院長の判断、外部への相談を一つの流れとして整え、スタッフと患者さんの双方が安心して過ごせる環境づくりを進めましょう。
クリニックの業務整理・HP運用に関するご相談
Alplanへのご相談は、下記フォームからお問い合わせください。院内の相談・報告の流れや、HPと受付の案内の整理など、現在の課題をご記入いただけます。個別のカスハラ該当性、診療の求めへの対応、労務や法的措置の判断は、院長と弁護士・社会保険労務士等による確認が必要です。
代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)
参考資料
[1] 厚生労働省「医療機関における業務効率化・勤務環境改善について」。2026年10月26日、医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会(第5回)資料2。医療現場のカスハラ対策の掲載箇所を参照。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001762757.pdf
[2] 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」。2026年2月26日告示、同年10月1日適用。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75ac0814&dataType=0&pageNo=1
[3] 厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」。2019年12月25日付医政発1225第4号。資料はいずれも2026年10月29日確認。
