クリニックの開業を考え始めたとき、「物件探しから始めるべきか」「資金はいくら必要か」「診療以外の準備を誰に相談すればよいか」と迷う医師もいるでしょう。
開業準備では、診療方針・立地・収支・人員体制をつなげて考えることが大切です。物件や機器を先に決めると、その条件に合わせて診療内容や資金計画を変更することになりかねません。
この記事では、開業予定の医師に向けて、準備の全体像を7つのステップで整理します。主に無床クリニックを想定しています。手続きは開設形態・所在地・診療内容によって異なるため、該当する自治体と地方厚生(支)局の案内を確認してください。
1.どのような診療を届けたいかを決める
最初に整理したいのは、診療科名だけでなく、「どのような患者に、何を提供するクリニックか」です。
例えば、地域のかかりつけ医として幅広く対応するのか、特定領域の専門性を生かすのかによって、立地・設備・診療時間・スタッフに求める役割は変わります。
次の項目を、まず1枚にまとめてみましょう。
- 主な診療内容と対応する範囲
- 想定する患者の年齢層・受診理由・生活圏
- 診療日と診療時間
- 必要な検査・処置・設備
- 地域の医療機関と連携したい内容
この段階では仮説でも構いません。調査や見積もりを進めながら、方針と条件をすり合わせていきます。
2.地域と物件を、診療方針に合わせて調べる
地域を選ぶ際は、人口や競合医院の数に加えて、患者が通院しやすいかを確認します。
診療圏調査では、人口構成、周辺の医療機関、交通手段などを整理します。ただし、調査から得られる患者数の予測は、実際の来院を保証するものではありません。前提を確認し、現地の状況と合わせて判断するための材料として使います。
物件の比較では、次の点を確認しましょう。
- 想定する患者が通いやすい場所か
- 入口・階段・エレベーター・駐車場などの条件
- 診療室、検査室、受付等を配置できる広さと形状
- 電気・給排水・換気・通信環境の条件
- 賃料、共益費、保証金、工事に関する契約条件
物件契約前に、設計・施工会社と関係する行政窓口へ相談し、予定する診療が可能かを確認します。地域独自の届出や、対象区域に応じた事前手続きの有無も、この時点で調べておくと工程を組みやすくなります。
3.初期費用と開業後の資金繰りを分けて考える
資金計画では、「開業するための費用」と「開業後に運営を続けるための資金」を分けて整理します。
初期費用には、物件取得、内装、医療機器、システム、家具、採用、Web制作などがあります。開業後は、給与、賃料、仕入れ、保守料、借入返済などの支出を確認します。
売上の予測だけでなく、入金と支払いの時期を月ごとに並べることも重要です。想定より患者数が少ない場合や、開業が遅れた場合でも資金が不足しないかを試算しましょう。
事業計画では、患者数・診療単価・診療日数・人員体制などの前提を明らかにします。日本政策金融公庫の創業計画書セルフチェックも、事業の概要、資金調達、見通しを整理する際の参考になります。[1]
資金の必要額は診療科、地域、規模、機器等で変わります。一般的な費用相場だけで予算を決めず、自院の条件で見積もりを集め、税理士や金融機関と確認します。
4.内装・機器・システムを、実際の業務から選ぶ
設備を選ぶ前に、患者とスタッフの動きを具体的に考えます。
受付から問診、診察、検査、会計までの流れを書き出し、どの場面で、誰が、何を行うかを整理すると、必要な設備や配置を検討しやすくなります。
電子カルテや予約システムも、機能数だけで比較するのではなく、自院の運用に合うかを確認します。
- 電話予約とWeb予約をどう扱うか
- 当日受診や予約変更にどう対応するか
- 問診情報を誰が確認するか
- 会計やレセプト業務とどう連携するか
- 障害時の連絡先と代替手順をどうするか
見積もりでは、導入費用に加えて、利用料・保守・追加作業・契約期間を揃えて比較します。内装、機器、システムの担当者同士で、設置条件や納期を共有することも大切です。
5.採用と院内の役割分担を準備する
採用人数は、患者数の想定、診療内容、診療時間、担当業務を踏まえて検討します。職種と人数だけでなく、開業時に誰がどの仕事を担うかまで決めておきましょう。
受付・電話・会計・物品管理などの担当が曖昧だと、確認や調整が院長に集中しやすくなります。通常の対応に加え、院長への相談が必要な場面を整理しておくと、教育にも使えます。
開業前には、予約から会計までの模擬運用を行い、患者案内や担当間の引継ぎを確認する計画を立てましょう。雇用条件や労務手続きは、必要に応じて社会保険労務士等と確認します。
6.開設と保険診療の手続きを確認する
診療所の開設手続きと、保険診療を行うための指定申請は、分けて管理します。
例えば広島市では、医師・歯科医師が開設する診療所の開設届について、開設後10日以内の提出が案内されています。一方、医師・歯科医師以外による開設等は手続きが異なります。自院に該当する区分と必要書類を確認してください。[2]
公的医療保険を適用する診療を行うには、地方厚生(支)局長による保険医療機関の指定が必要です。指定を受けたい時期から逆算して、管轄窓口の申請締切や添付書類を確認します。2026年4月以降の保険医療機関管理者の要件についても、公式案内の確認が必要です。[3]
また、外来医師過多区域として指定された地域で、新たに無床診療所を開設して保険医療機関の指定を受けようとする場合には、開設6か月前までの事前届出に関する制度があります。開業予定地が対象か、どの手続きが必要かを都道府県へ確認してください。[4]
開業日は、工事の完成日だけで決めず、必要な手続きと指定の見通しを合わせて設定することが大切です。
7.患者への案内と、開業後の運営確認を整える
開業前には、患者が受診を判断できる情報を揃えます。
ホームページには、診療内容、診療時間、所在地、アクセス、医師紹介、予約方法、受診の流れなどを整理します。Googleマップ等の情報も、ホームページと一致しているかを確認しましょう。
原稿やSNS投稿は、診療内容を分かりやすく伝えることと、表現・掲載条件の確認をセットで進めます。医療機関の広告に関する確認には、厚生労働省が掲載するガイドラインやQ&Aを参照してください。[5]
開業後の確認項目も、事前に決めておきます。患者数、予約状況、流入経路、待ち時間、スタッフの負担、資金繰りなどを定期的に見直し、運営に合わせて修正します。
開業準備を進めるための最初の一歩
最初から全ての項目を確定させる必要はありません。まずは、次の3つを作るところから始めてみてください。
- 診療方針と想定患者をまとめた1枚のメモ
- 準備項目・担当者・期限を並べた工程表
- 初期費用と月次の資金繰りを整理した試算表
そのうえで、物件、資金、採用、Web、手続きの間に矛盾がないかを確認します。各分野の担当者に任せる場合も、全体の進捗を誰が把握するかを決めておくと、調整を進めやすくなります。
Alplanでは、クリニックの開業支援やWeb制作・集患支援、業務改善の相談を受け付けています。「何から準備すればよいか」「複数の準備をどう進めればよいか」とお悩みの方は、現在の検討状況と課題をお聞かせください。必要な支援範囲を一緒に整理します。
参考情報
確認日:2026年10月11日。手続きの詳細は、開業予定地を管轄する窓口の最新案内をご確認ください。
[1] 日本政策金融公庫「創業計画書セルフチェック」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/sougyouselfchek/
[2] 広島市「診療所に関する手続・管理」
https://www.city.hiroshima.lg.jp/business/iryo/1021680/1020228.html
[3] 中国四国厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定申請」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/chugokushikoku/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_shitei_shinsei.html
[4] 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ及び添付書類等」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/shitei_shinsei.html
[5] 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
