情報確認日:2026年10月26日
「患者さんは来ているし、決算も黒字。医院を続けるうえで、大きな問題はないはず」。そう考えていても、院長の体調やスタッフの退職、設備更新が重なったとき、同じ診療体制を維持できるでしょうか。
歯科医院の継続を考える際は、収支とともに、人員、設備、院長への業務集中、将来の引き継ぎを確認する必要があります。今回は帝国データバンクの調査を入口に、診療を続けるための備えを整理します。
1.調査で分かる、倒産と休廃業の動き
帝国データバンクが2026年10月6日に公表した「歯医者」の倒産・休廃業解散動向(2026年1–9月)によると、同期間の倒産は23件、休廃業・解散は120件でした。休廃業・解散は前年同期の106件から増えています。
| 区分 | 2026年1〜9月の件数 | 調査上の位置付け |
|---|---|---|
| 倒産 | 23件 | 負債1,000万円以上の法的整理 |
| 休廃業・解散 | 120件 | 法的整理を除く、活動停止や解散を確認した事業者 |
同調査では、過去5年間に廃業した歯科医院のうち、直近期の業績が判明した120件について、半数超が黒字だったと報告しています。これは上表の「2026年1〜9月の120件」とは別の集計です。「今年廃業した医院の半数超が黒字」と読み替えることはできません。
また、倒産と休廃業は異なる区分です。合計143件をすべて「倒産」と表現するのは不適切です。
2.自院では「利益」と「継続できる体制」を一緒に見る
ここからの点検項目、表、質問例は、調査結果そのものではなく、Alplanによる実務上の提案です。個別医院の閉院原因を推定するものではありません。
決算書で利益が出ていても、その数字だけでは、翌月以降の支払い余力や院長不在時の診療体制までは分かりません。逆に、設備更新で一時的な負担が生じたからといって、直ちに経営継続が難しいとも限りません。数字と運営条件を組み合わせて見ることが大切です。
例えば、院長だけが業者との契約内容を把握し、受付責任者だけが予約変更の判断を担っている医院を考えてみましょう。これは仮の例ですが、二人のどちらかが急に休むと、日常の小さな判断が止まる可能性があります。収益とは別に、仕事を引き継ぐ準備が必要な状態です。
院長一人で全項目を調べる必要はありません。受付・診療スタッフ・経理担当者に確認先を分け、「分かっていること」と「まだ確認できていないこと」を一枚にまとめるところから始めましょう。
3.備え① 売上だけでなく、支払った後に残る資金を確認する
月次の確認では、売上や利益に加えて、実際の預金残高と今後の支払いを並べます。借入元本の返済は、損益計算書の費用とは別に現金が出ていく項目です。設備購入の支払い時期も、会計上の費用計上と一致するとは限りません。
まずは経理担当者や顧問税理士と、今後3か月程度の入金・支払い予定を整理してみましょう。この期間は管理を始めるための例であり、十分な資金量を保証する基準ではありません。医院の支払い周期や投資予定に応じて延ばします。
| 確認する数字 | 一緒に見る予定・条件 |
|---|---|
| 預金残高 | 給与、家賃、材料代などの支払日 |
| 診療収入 | 入金時期と、直近の増減 |
| 借入返済額 | 元本・利息、返済条件の変更予定 |
| 設備・修繕費 | 見積額、支払時期、契約済みかどうか |
| 税金・社会保険料 | 納付時期と、確保している資金 |
聞いておきたい質問は、「予定どおりに入金しても、残高が大きく減る月はいつですか」です。売上を増やす施策の前に、支払いが重なる時期を把握することで、相談や調整の準備を早められます。
資金の不足が見込まれる場合は、支払期限が迫る前に税理士や金融機関へ相談します。必要な診療材料や人員を一律に減らすと、診療への影響が生じ得るため、削減対象は業務の実態を確認して選びましょう。
4.備え② 人が辞めたときに止まる業務を把握する
人員体制の点検は、単に「何人採用するか」を決める作業ではありません。予約枠、担当業務、勤務時間を並べ、誰かが休んだときに何が難しくなるかを確認します。
例えば、特定のスタッフしか分からない機器の準備や、担当者の記憶に頼る発注があれば、手順と確認先を記録します。診療行為や資格が必要な業務は、担当可能な職種・権限を確認したうえで役割を決めます。人手が足りないからといって、誰にでも同じ仕事を任せられるわけではありません。
点検では、次の三つをスタッフと話し合います。
- 一人が休むと、その日の予約や診療に影響する業務は何か。
- 代わりに対応できる人と、引き継ぐ資料はあるか。
- 対応が難しいとき、予約調整を判断する人は誰か。
欠員時に院長がすべてを補う運用では、院長自身の負担も増えます。「無理をすれば回る」を前提にせず、予約枠や担当の組み方をどこまで変更できるか、平時に考えておくことが備えになります。
採用を検討するときも、求人を出す前に不足する仕事と時間帯を具体化します。「忙しいから一人増やす」よりも、「この時間帯のこの業務を任せたい」と整理した方が、必要な条件を検討しやすくなります。
5.備え③ 設備更新を、故障してからの判断にしない
診療ユニット、画像関連機器、滅菌器、院内システムなどについて、導入時期、保守契約、故障時の連絡先を一覧にします。使用年数だけで更新を決めず、メーカーや保守会社に、部品供給、点検結果、修理対応の見通しを確認しましょう。
特に、停止すると診療内容や予約枠に影響する機器を先に確認します。機器ごとに、次の質問を準備できます。
- 故障した場合、修理までの期間はどのように確認できますか。
- 部品供給や保守対応の終了予定はありますか。
- 代替機や代替手段は利用できますか。費用と条件は何ですか。
- 更新する場合、購入費以外に工事・研修・保守などの費用はありますか。
見積もりは総額だけでなく、費用に含まれる範囲と支払い時期をそろえて比較します。複数の機器を同時に更新する計画なら、診療への影響と資金負担を分けて確認し、実施時期を調整できるか検討します。
将来の承継を考えている医院では、大きな設備投資の前に、その設備が今後の診療方針に合うかも相談しておきたいところです。投資すれば承継が有利になる、古い設備なら引き継げない、と一律に判断しないことが大切です。
6.備え④ 院長が不在でも、連絡と判断が止まらないようにする
院長の急な入院などを想定し、「誰が診療できるか」と「誰が連絡・事務を進めるか」を分けて考えます。事務を引き継げても診療を継続できるとは限らないため、診療体制は個別に確認が必要です。
院内では、まず次の情報の所在を共有しましょう。
- スタッフへの緊急連絡方法と、最初に連絡を受ける責任者
- 当日の患者さんへの案内、予約変更を進める担当者
- 顧問税理士、主要業者、保守会社などの連絡先
- 給与や家賃など、支払い予定を確認できる資料
- 契約書や重要書類の保管場所と、閲覧できる人
共有は、権限のある人に必要な範囲で行います。患者情報や認証情報を誰でも見られる一覧にまとめる必要はありません。院長の個人端末にだけ情報がある場合も、業務上必要な情報をどう引き継ぐかを検討します。
「来週、院長が一週間休むとしたら、誰が何を判断しますか」。この仮定で話すと、連絡先だけでは足りない部分が見つかります。未確定の項目は、その場で無理に決めず、専門家や関係先への確認事項として残しましょう。
7.備え⑤ 承継・縮小・閉院の希望を、余力のあるうちに整理する
医院の将来を考える際は、院長自身が「いつまで、どのように診療したいか」を言葉にすることが出発点です。親族への承継、第三者への承継、診療日や規模の見直し、計画的な閉院など、希望に応じて検討する事項が変わります。
家族に歯科医師がいても、本人に承継の意思があるかは別に確認する必要があります。候補者がいない場合も、「そのうち探す」で止めず、相談先と検討時期を決めておくと、必要な情報を集めやすくなります。
| 整理すること | 最初の質問例 |
|---|---|
| 院長の希望 | 何年後に、どの程度の診療を続けたいか |
| 候補者の意向 | 本人と、希望時期や診療方針を話せているか |
| 医院の現状 | 収支、借入、設備、契約を説明できるか |
| スタッフ・患者対応 | 方針が決まった際、誰に何を相談するか |
| 専門家への相談 | 税務・法務・手続きを誰に確認するか |
ここでの目的は、その場で承継や閉院を決めることではありません。院長の希望と医院の現状の間に、どのような準備が必要かを把握することです。譲渡条件、税務、労務、行政手続きなどは、個別の事情に応じて専門家・関係機関へ確認します。
8.最初の一歩は、未確認の項目を三つ選ぶこと
五つの備えを一度に完成させる必要はありません。まずは次のチェック項目を見て、自院で答えが曖昧なものを三つ選んでみましょう。
- 今後の入出金と、大きな支払いが重なる月を把握している。
- 欠員時に難しくなる業務と、調整を判断する人が分かる。
- 主要設備の保守状況と、更新時の費用を確認できる。
- 院長不在時の連絡・事務の担当者を決めている。
- 将来の診療方針や承継について、相談する時期を考えている。
選んだ項目に「確認する人」「相談先」「次に確認する日」を付けます。会議を開いただけで終わらせず、次回に回答と残る課題を確認できる形にすることが大切です。収支の改善と診療体制の整備を並行して進め、院長が判断できる材料を増やしていきましょう。
医院経営・業務整理のご相談
Alplanへのご相談は、下記フォームからお問い合わせください。経営上の課題や院内業務、外部事業者との役割分担など、現在困っていることをご記入いただけます。個別の税務・法務・承継手続きは、各分野の専門家への確認が必要です。
代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)
参考資料
帝国データバンク「『歯医者』の倒産・休廃業解散動向(2026年1–9月)」、2026年10月6日公表、集計は同年9月30日まで。2026年10月26日原文確認。
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20261006-dentalclinic26y1-9/
