情報確認日:2026年10月28日
最後の患者さんの診察が終わっても、会計の締め、診療記録、電話対応、物品の補充、翌日の準備が残っている。こうした毎日が続き、「診療が長引くから仕方がない」と感じていないでしょうか。
診療時間と、スタッフが仕事を終える時間は同じではありません。残業を減らすには、診察の終了時刻だけでなく、その前後にどの仕事が、誰の手元に残るのかを見る必要があります。
本記事では、クリニックで診療後の業務を整理し、安全と必要な確認を保ちながら、仕事の進め方を見直す手順を紹介します。単に「早く帰りましょう」と呼びかける前に、残っている仕事の中身を確かめてみましょう。
1.11月を前に、働き方を見直すきっかけに
厚生労働大臣による2026年10月19日付「長時間労働削減を始めとする働き方の見直しに向けた取組に関する要請書」は、11月の「過重労働解消キャンペーン」に向けて、労働時間の適切な管理や、長時間労働を前提とした働き方の見直しなどへの協力を求めています。[1]
要請書には、経営トップによるメッセージの発信、年次有給休暇を取得しやすい雰囲気づくりなども挙げられています。これはクリニックだけを対象にした調査結果や、特定の業務改善による効果を示す資料ではありません。
以下の確認表や進め方は、要請書の趣旨を踏まえたAlplanの実務提案です。医院ごとに診療内容、スタッフの人数、雇用条件が異なるため、自院の実態に合わせて検討してください。労働時間の取扱いや就業規則の変更などは、社会保険労務士等への確認が必要です。
2.最初に見るのは「何時まで」より「何が残ったか」
残業時間の合計だけでは、どこを変えればよいか分かりにくいものです。まずは一週間など期間を決め、診療終了前後の仕事を簡単に記録します。集計のために、現場の記録作業を増やしすぎないことも大切です。
すでにある勤怠記録や業務メモを活用し、仕事が終わった時刻、残っていた内容、待ち時間が発生した理由を確認します。個人の作業の速さを比べるためではなく、仕事が集中する場所を探すための記録だと説明しましょう。
| 見る項目 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| 診療の状況 | 最後の診察・処置・会計が終わった時刻 |
| 残っていた仕事 | 会計締め、記録、清掃、補充、発注、翌日準備 |
| 担当と引き継ぎ | 誰が作業し、誰の確認を待っていたか |
| 予定外の対応 | 問い合わせ、入力修正、機器の不具合等 |
| 終了の条件 | 何を確認すれば、その仕事を終えられるか |
例えば「受付の残業が多い」という状態でも、原因が会計の確認待ちなのか、締め作業の二重入力なのかで対応は変わります。診察が予定より延びた日と、診察は予定どおりでも後処理が長引いた日は、分けて見ておきましょう。
3.仕事を四つに分け、動かせる部分を探す
診療後の仕事をすべて翌日に回すことも、すべて当日中に終わらせることも、現実的とは限りません。まずは各業務を次の四つに分けます。
| 区分 | 主な検討内容 |
|---|---|
| その場・当日に必要 | 患者対応や安全、会計等の理由から必要な完了条件を確認する |
| 診療中に前倒しできる | 混雑していない時間に進められる補充や準備があるか確認する |
| 期限を決めて別の時間にできる | 発注集計や資料整理等について、担当者と実施枠を決める |
| 重複・目的不明 | 同じ情報の転記や、使われていない集計の必要性を確認する |
この区分は、業務名だけで一律に決めないようにします。同じ「物品補充」でも、緊急時に必要な物品と、翌日でも間に合う事務用品では条件が違います。診療記録や医療安全に関わる確認も、都合だけで先送りしないことが重要です。
「あとでやる」と決める場合は、いつまでに、誰が行い、未完了をどう把握するかをセットにします。翌日の担当者に説明のないまま仕事を渡すと、探す時間や確認の電話が増え、別の負担につながります。
4.担当者の工夫だけでは変わらない「待ち」を減らす
診療後の時間には、作業している時間だけでなく、確認を待つ時間も含まれます。受付が会計内容の確認を待つ、スタッフが院長への報告の機会を待つ、といった流れがないかを確かめます。
見直す際は、誰かが遅いと決めつけず、仕事が次の人に渡る条件を具体的にします。例えば、診療終了前に確認が必要な案件を一覧にする、問い合わせを集める窓口を決める、通常と異なる会計の確認先を共有する、といった方法が考えられます。
ただし、確認をまとめることで緊急の情報が届かなくなっては意味がありません。「すぐに伝える内容」と「決まった時間にまとめてよい内容」を、診療上の必要性に基づいて分けます。
院長への確認が集中している場合は、質問の仕方も整えます。「どうしますか」だけでなく、患者さんや業務への影響、確認した事実、判断が必要な点を短く示せると、やり取りを整理しやすくなります。スタッフに任せる範囲と、院長の判断が必要な範囲も合わせて確認しましょう。
5.電話・会計・翌日準備は、終了時の流れから点検する
診療後の負担が見えたら、業務ごとに「入口」と「終わり方」を確認します。次の質問を院内の話し合いに使ってみてください。
- 電話:よくある問い合わせを、HPや予約案内で事前に説明できないか。緊急性を判断する手順や、担当者へつなぐ条件は共有されているか。
- 会計:確認待ちや入力のやり直しは、どの場面で起きるか。診療側から必要な情報がそろって届く仕組みになっているか。
- 補充・清掃:診療中に進められる範囲と、最後の患者対応後に行う範囲は分かれているか。必要な衛生管理を省略せず、順番を変えられるか。
- 翌日準備:毎日必要な内容と、曜日や診療内容によって変わる内容を区別できているか。
- 集計・報告:誰が何の判断に使う資料か。同じ数字を複数の帳票に転記していないか。
電話対応時間や予約受付の運用を変える場合には、患者さんへの案内、予約システム、留守番電話等の表示をそろえます。院内だけで変更を共有しても、HPに以前の案内が残っていると問い合わせが増える可能性があります。
ITツールの導入は、仕事の流れを確認した後に検討します。二重入力が原因なら連携や入力項目の整理が候補になりますが、確認する人や判断基準が曖昧なままでは、ツールを増やしても待ち時間が残ることがあります。
6.まず一つの業務で試し、時間と品質を一緒に見る
最初から医院全体の運用を変えず、負担が繰り返し発生している仕事を一つ選びます。「翌日準備の担当を決める」「会計の確認事項を共有する」など、変更内容を短く説明できる案から始めましょう。
例えば二週間試す場合は、対象業務、担当者、開始日、振り返る日を決めます。これは進め方の一例であり、二週間で残業が減ると保証するものではありません。休診日や患者数など、比較に影響する条件も記録しておきます。
| 確認する観点 | 振り返りの質問 |
|---|---|
| 時間 | 終了時刻、確認待ち、やり直しはどう変わったか |
| 品質・安全 | 必要な確認の漏れや、患者対応への影響はないか |
| 負担の移動 | 別の担当者や翌日の勤務に仕事が偏っていないか |
| 続けやすさ | 特定の人が休んでも、同じ手順で進められるか |
勤怠上の時間が短くなっても、打刻後に作業していたり、休憩中の対応に置き換わっていたりしては、業務の負担が減ったとはいえません。記録を短く見せることではなく、必要な仕事を勤務の中で終えられる運用を目指します。
振り返りでは「うまくいかなかった点」を話せることも大切です。患者数が増えた日に手順が崩れるなら、その日の担当配置や中止条件を見直します。通常時だけでなく、欠勤や急な対応があった日にも使える形へ調整しましょう。
7.院長が伝えたいのは、早く帰るための判断基準
「残業を減らしてください」という指示だけでは、スタッフは何を変えてよいか迷います。院長からは、必要な診療・確認を守ること、重複した仕事は見直すこと、終わらない場合は抱え込まず報告することを伝えます。
あわせて、変更を決める人と、困ったときの相談先を明確にします。「今日はここまででよい」と判断できる条件が分かれば、担当者ごとに対応が違う状態を減らしやすくなります。
始める際は、次の五つを確認してみましょう。
- 診療後に残る仕事と、その理由を把握した。
- 当日必要な仕事と、実施時間を動かせる仕事を分けた。
- 担当者、確認先、完了条件を決めた。
- 変更を一つ試し、振り返る日を決めた。
- 時間だけでなく、安全と他の担当者への負担も確認する。
残業の見直しは、誰かに急いでもらうためだけの取組ではありません。診療から会計、片付け、翌日準備までのつながりを整理し、無理なく続けられる仕事の形を作ることから始めましょう。
クリニックの業務整理・IT活用のご相談
Alplanへのご相談は、下記フォームからお問い合わせください。診療後に残る仕事や、受付・診療・会計間の引き継ぎなど、現在の課題をご記入いただけます。労務上の個別判断や就業規則の整備は、社会保険労務士等と確認しながら進める必要があります。
代表・幸城裕樹の登壇動画(YouTube/メディカルトリビューン)
参考資料
[1] 厚生労働大臣「長時間労働削減を始めとする働き方の見直しに向けた取組に関する要請書」(2026年10月19日付、日本病院会掲載10月26日)。
